■国会議員100人アンケート
子ども施策2022プロジェクト
企画・文/今一生(フリーライター
『子ども虐待は、なくせる』著者)
https://conisshow.blogspot.com/2020/02/profile.html ※プロフィール
※以下の回答は、国会議員に期待した模範解答の一例です。
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〈実例01〉
私は今、12歳の中学1年生の女の子です。
両親にぶたれ、体はあざだらけです。
兄からも虐待され始め、最近は死にたい気持ちがふいに襲ってきます。
しかし、病院やカウンセリングに行くのを、親から止められています。
かといって、児童相談所には保護されたくありません。
私が家にいなくなったら、家族にペットの犬猫が虐待されてしまうのが心配だから。
学校の友だちに会えなくなるのもイヤです。
正直、家族はみんな死んで、いなくなってほしいです。
祖父母や親せきも遠くないところに住んでますが、私との仲は良くないです。
これからも虐待され続ける私は、どうすれば家族から解放されるのでしょうか?
〈質問A〉
この子が目の前にいたら、あなたはどんな行動をとりますか?
〈回答〉
彼女に、以下の言葉を伝えます。
「あなたの場合、虐待から逃れ、家族から解放されたいとしたら、今の法律では児童相談所に相談する以外にありません。
しかし、ペット連れで保護されることは、まずありません。
そもそも、虐待相談の8割以上は、保護されていません。
児童福祉がハコモノ行政である以上、一時保護所に定員があるため、児童相談所を続々と新設しない限り、新規の保護を受け入れることが難しく、同時に児童相談所の職員も不足しているため、保護後の対応にも苦慮しているからです。
こどもの気持ちや事情を組んだ上で制度設計がなされていないのは、これまで『こどもファースト』に基づいて虐待防止法が発案されてこなかったからです。
その点を、大人として申しわけないと謝りたいです。
また、児相での保護を望まない場合、子どもでも親権停止を家庭裁判所にお願いすることができます。
親権者である両親があなたに対する虐待をやめない以上、親権の濫用にあたるため、2年間の親権の停止(あるいは喪失)を求めれば、認められる確率は高いです。
もっとも、この基礎的な権利を、学校では教えてくれないでしょう。
でも、児童相談所に相談すれば、くわしい説明や裁判の手続きをしてくれるので、足を運んでみる価値はあります。
両親の親権が家庭裁判所で停止されると、他の大人が親権を代行することになりますが、こどもはその大人を自由に選べるかといえば、そうもいかず、少ない選択肢から選んでもらうことになります。
また、『成年に達しない者は父母の親権に服する』という法律(民法第818条)があるため、18歳の誕生日を迎えるまでは自分自身の言動について自由や権利がないに等しく、親権者に黙って従わざるを得ません。
この法律がある限り、日本の子どもは親の奴隷にすぎません。
こうした『こどもファースト』とはいえない法律の改正がこれまで進まなかったことも、有権者の一人として申しわけなく思います。
今後は、こどもに関する法律が、子どもから人権を奪っていないかを検証し、法の壁を取り除くことで、虐待被害から一刻も早く解放されるようにしていきたいです。
法律と予算を議決できる唯一の存在が国会議員なので、家庭裁判所の判断を仰がなくても、親権者をこども自身の意向で自由に選べる仕組みや、親権者と対等に交渉できる権利を保証する法律も、急いで作りたいです」
〈質問B〉
あなたが今、この子どもと同じ年齢で、同じ被害に遭っていたら、苦しみから逃れるために何ができると思いますか?
〈回答〉
おそらく何もできないと思います。
現代の日本には、虐待の定義や親権停止などの基本的な知識を教えられるチャンスが、学校や児童館などの公的な機関や、身近な民間の塾にもありません。
そのため、おそらく虐待されていることを自覚できないまま、親権の濫用による不当な支配から逃れられない自分の無力ぶりばかりを責めて、自殺を考えてしまうかもしれません。
あるいは、ときどき家出しては、友人や友人の家族に迷惑をかけるだけでしょう。
そして、そういう孤独の中で、金がないことで家から出られないことに気づき、金を得る方法を学ぼうとするかもしれません。
15歳以下は法的に雇用されないことも、学校では教えてくれないので、雇用ではなく起業することで経済的に家族から自立できる事例をネットか学べたなら、そこから家出=自立の方法を模索するかもしれません。
しかし、起業による経済的自立は、あくまでも偶発的にネットで出会う以外に、なかなか思いつけない可能性が高いでしょう。
生活費が月にいくらかかるかなど、現実のひとり暮らしをすることも、ピンとこないかもしれません。
そう思うと、「売春でも何でもいいから…」と考え、わらにもすがるように非合法な手段で金を得るような間違いを犯してしまうかもしれません。
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〈実例02〉
僕は、小学5年生の男子です。
親が入っている宗教団体の教団施設で暮らしています。
風呂に入れなくて教室で「くさい」といじめられたり、両親がたくさんのお布施をしているせいか、まともに食事ができず、毎日給食だけで、いつもおなかがすいています。
しかし、教団の大人からは「教団以外の人とつきあうな」と言われ、口数が少ない僕は、先生や友達にも「おかしな奴」と思われているので、相談できません。
施設の中では教団の活動の手伝いをしなければならないし、海外に数か月間、学校を休んで布教活動に行かされることもあるので、勉強も思うようにできません。
僕は親に連れてこられただけで、その団体の信者ではありません。
僕はいつまで、こんなところにいなければならないのですか?
もう、集団生活はイヤです。
大人はもう信用できませんし、同世代にいじめられるのも怖いです。
本当は家出したいのですが、どこに行けばいいのかもわからず、お金もありません。
僕はどうすれば、この教団施設から避難できるのでしょうか?
〈質問A〉
この子が目の前にいたら、あなたはどんな行動をとりますか?
〈回答〉
この子を含む、この子と同じような境遇にいる子どもたちを一斉に救えるよう、弁護士会に相談し、なるだけ早く弁護団の結成を促すでしょう。
もっとも、教団施設で暮らしている未成年でも、基本的には親権者だけがその子どもの居所許可権をもっています。
民法第821条には、こう書かれています。
「子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。」
つまり、親がその教団の信者で、自分の子どもを教団施設に住まわせたい場合、子どもにはそれを拒否する法的な権利はないのです。
教団施設内でどんな虐待が行われているかを調査できるよう、その調査を児童相談所が家庭裁判所に認めてもらえれば、話は進みますが、実際にその調査を進めようとすれば、かなりの困難が伴います。
事前に明らかな刑法犯罪の証拠が得られているなら、警察の全面協力もありえますが、日本国憲法は信教の自由を保障しており、「成年に達しない者は父母の親権に服する」という法律(民法第818条)がある以上、児童相談所が複数の職員を投入して解決するという動きにはなかなかならなりません。
また、民間人である弁護士たちが、お金にならない子どもに関する訴訟のために弁護団を結成するのも、正直見込みにくい面もあります。
こうした実務の前に、子ども自身が教団施設から親権者の許可なしに飛び出せば、家出人=虞犯少年として警察に保護されたり、子ども自身が不良少年として後ろ指をさされてしまいます。
そもそも教団の外部の大人に相談したくても、学校教師や親せきなど、限られた大人しか想定できず、相談しても早く解決してくれなければ、教団内部で外に出さない対応をとられてしまうこともあり、なかなか声を上げにくい状況といえます。
こうした宗教がらみの問題の場合、「教団施設で未成年は暮らしてはいけない。暮らさせた大人は罰する」などの新しい法律を作り、親権者の居所指定権の及ぶ範囲を決めるのも必要ですが、これまで国会質疑にこうした各論の問題が語られることはありませんでした。
国会議員としては、こどもファーストの理念をふまえて、超党派の勉強会を開催し、こうした宗教上の子どもの困難に対応できる法律の成立を目指したいです。
ただし、主だった政党は、選挙の際の組織票として宗教団体に頼っているため、団体存続のために次世代の信者を獲得したい宗教団体の意向をくまざるを得ない事情もあります。
しかし、そうした「大人の事情」の前で思考停止せず、活発な議論のできる土壌を作ることに挑戦したいですし、そういう政治家を増やしたいです。
〈質問B〉
あなたが今、この子どもと同じ年齢で、同じ被害に遭っていたら、苦しみから逃れるために何ができると思いますか?
〈回答〉
教団の教えによって「教団以外では生きられない」と洗脳させられているおそれがあり、実の親の元から離れる不安から、外部に対して相談すること自体が大変でしょう。
それを考えると、この子と同じ被害に遭っていたら、自分ではほとんど何もできないと思います。
本当は、子ども自身でも親権停止を家庭裁判所に訴えることができることぐらいは義務教育(小中学校)で学べるようにし、早めに児童養護施設や里親の元で暮らせるようにできたり、施設や里親だけでなく、子どもの意志で親権者を自由に選べるようにしたり、海外での生活や通学も含めた選択肢を守ってあげられるにしたいですね。
実際、親が熱心な信者であることで、子どもが学校でいじめられてしまうことは、よく聞く話です。
「家庭で虐待された子どもほど、校内でのいじめに遭いやすい」という学術論文も、日米で発表されており、インターネットで誰もが読める時代です。
素人でもこうした情報が手に取れる今日、子ども自身ができることは、インターネットで自分を救える制度や知識を自ら学ぶことだけかもしれません。
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〈実例03〉
私は、16歳の女子高生です。
幼い頃からずっと、実父に性的虐待を受け続けています。
過去に2度中絶させられ、今3度目の妊娠を強いられましたが、毎日少しずつおなかが大きくなるので、もうすぐ隠せなくなりつつあります。
私の母は物心つく前からおらず、どこにいるかもわからず、父親と2人暮らしです。
好きな人ができた時に産めない体になるのが怖くて、もう、中絶はしたくありません。
でも、父親の子を育てられる自信もありません。
生んだ後に、子どもに説明する勇気もありません。
こんなこと、学校や地域などの身近な人はもちろん、役所の人も含めて、誰にも相談できません。
「おまえのことが好きだ」と言う父親を、どこか拒否できずにいる自分が嫌いです。
私には父を殺す勇気はなく、性被害を警察に通報して父が逮捕されたら、一生「犯罪者の娘」として生きていかなければならなくなるのも、子どものためにも怖いです。
身寄りもないので、父親がいなくなってしまうと、生活費が心配です。
かといって、性被害を噂されるのが怖くて、施設には入りたくないです。
親ガチャの運が悪い私は、死ぬしかないのでしょうか?
〈質問A〉
この子が目の前にいたら、あなたはどんな行動をとりますか?
〈回答〉
まず、こうした事例に対して彼女が十分に納得できる法整備ができていないことを、立法府で働く者として、謝りたいです。
そのうえで、彼女が自分の意志で中絶か、妊娠を選べるよう、必要十分な知識を提供します。
若年妊娠は、児童相談所でも対処しているため、施設や里親などの元で暮らせるようにもなり、家を出ても生活は困らないこと。
実父は、監護者わいせつ罪で「6月以上10年以下の懲役」になりうること。
性虐待による解離状態で被害の事実を認識しずらいと、裁判で被害者が不利になる場合もあること。
過去にもこうした事例は少なからずあり、子どもを育てあげた母親もいること。
18歳の誕生日を迎えれば、どこで暮らそうと、自分だけで決められること。
仏門に入って法名をいただけば、戸籍の名前は変えられること。
筆名や芸名などを作って働ける職種もあること。
家族や親族に居場所を知られたくない時は、彼らに転居先の住民票などの閲覧を制限させる届けを、転居先の役所や警察で出せるということ。
彼女がどんな選択をしても、決して悪くないこと。
国会議員としては、彼女と同類のケースが事実としてあることを1人でも多くの議員と共有できる勉強会を開催し、当事者が望む解決のあり方が実現できるよう、法整備を進めていきたいです。
また、生まれた子どもが、やがて学校や社会で不遇な目にあわないよう、性虐待を含む虐待について被害者の子どもが相談しやすくする環境整備や、「犯罪者の娘」というスティグマによる差別や偏見を生まない仕組みが必要であることも、有権者・政治家・司法関係者・児童相談所など幅広い層の人に向けて訴えていきたいです。
いずれにせよ、家族による性虐待の被害者に対する支援の制度が、十分ではないことを認識しつつ、なるだけ早めに法改正に取り組んでいきたいです。
〈質問B〉
あなたが今、この子どもと同じ年齢で、同じ被害に遭っていたら、苦しみから逃れるために何ができると思いますか?
〈回答〉
おそらく何もできないまま、自殺や家出、パパ活や神待ち(=売春)による自立などに追いつめられてしまうかもしれません。
実際、風俗嬢の一部には、父親や兄などからの性虐待を受けたために、「ほめてくれるし、お金にもなる」風俗で働くことによって、自尊心を回復したという人もいます。
もっとも、現在では風俗だけで働いても生活できない状況になりつつあり、パパ活や神待ちなどの非合法による売春では、暴力を受けたり、お金を払ってもらえないなどのトラブルが絶えません。
かといって、ふつうのアルバイトをしたくても、親権者が職業許可権をもっているため、虐待の事実を家の外に知られたくない親権者には、子どもにバイトを許可しない傾向があります。
その場合に備えて、売春以外で稼げるよう、児童相談所や自治体が在宅ワークを提供したり、あるいはその子それぞれができそうなネット上での仕事を一緒に二人三脚で開発するなど、従来の児童福祉サービスにはない経済的自立のための支援が必要になるはずです。
たとえそうした自立支援が難しくても、連帯保証の不要な物件に移住できるようにするために子ども自身に金銭を与えることを検討してもいいはずです。
こうした考えは、日頃から虐待されている子ども自身の声に関心を持ったり、大人にまでなんとか生き残れた虐待サバイバーの声を聞こうとしていれば、彼らがどんな「法の壁」によって虐待被害から解放されずにいるかに気づくため、いくらでも発想できます。
むしろ問題は、虐待に関する基礎的な知識や統計に関心を持たなかったり、そうした知識を分かち合う勉強会を超党派の国会議員の間で作ってこなかった点にあるでしょう。
いずれにせよ、参政権のない子どもの虐待被害は深刻なままであり、彼らの生存権を法的に守ってこれないまま、年間350人の虐待死(※日本小児科学会による推計値/2016年発表)によって、過去30年間で1万人以上の15歳未満の子どもが親に殺されてきました。
少子化対策にも失敗してきた一因は、虐待死で命を奪われてしまう事実にもあり、同時に、虐待被害によって自己評価を低められ、人間関係や仕事に自信がもてない大人に育てられてしまっている点も深刻です。
国会議員として、新たな虐待防止策の策定を一刻も早く進める必要があります。
ただし、これまでの同じ種類の有識者で防止策を検討しては、虐待を防ぐ成果は見込めないでしょう。
2023年4月から、こども家庭庁が設立されますが、こどもの声はもちろん、子どもの頃に虐待されても必死で生き残ってきた虐待サバイバー当事者の声も、防止策の策定の際に大切にされる仕組みを作っていきたいです。